性善説の値札
性善説の値札って、見たことありますか? わたしはセルフレジやオフィスグリコのようなシステムを見ると、つい考えてしまう。 ってか、ああいうシステムって、なんでずっとあるんだろう。 いかにもうまいことやってくださいとでも言いたげなしくみ。 田舎の無人販売所を思い出す。 商品をならべておくだけ。 そこからテキトーに取ってきて、お会計は利用者任せ。 日本人の国民性があってこそ利益を確保できているようにも見えるが、全然普通に万引きし放題にもなりえる。 セルフレジについては、それを防止するために、有人で監視したりするような、笑い話のような現実もあると聞く。 何で成立してるんだろうな、と思ったら、考え方としてはシンプル。 万引きのリスクまで織り込んで計算した結果、置いた方がプラスになりそうな形になっているらしい。 これ、現場までしっかり浸透した認識なのだろうか。 セルフレジの監視係は知っているのかな。 求められているのは、万引きを一件も起こさせないことではない。 万引きによる損失も、人件費も、その他の作業も全部ひっくるめて、店全体をプラスにすることである。 一件の万引きを防ぐために張りついている時間、ほかの仕事に集中した方が、全体として利益につながることだってある。 もちろん、フランチャイズ店のオーナーなどであれば話は変わる。 本部から見れば許容範囲の損失でも、自分の店から売上が消えるのであれば、文字どおり死活問題になりうる。 つまり、合理的かどうかは計算だけでは決まらない。 誰の財布で計算するかによっても変わる。 かなり前だが、Amazon Goというレジなし店舗の動画が流れたことがある。 あらかじめ決済方法を登録して店に入り、商品を取って、そのまま外へ出る。 何を持ち出したかが自動的に判定され、勝手に会計まで済ませてくれる。 あれ、どうなったんだろう。 あれができるなら、すごいことになる気がする。 と思って調べたら、Amazon Goの実店舗は閉鎖されることになったらしい。 技術がまったく使い物にならなかったわけではない。 無人決済のしくみ自体は、スタジアムや空港、社員用の売店など、別の場所で使われ続けている。 ただ、Amazon Goという店舗全体で考えると、大規模に展開できるほどの採算にはならなかったようだ。 ものすごく頭のいい人が、ものすごいしくみを考えた。 レジをなくした。 会計する人をいらなくした。 商品を持って出るだけで、勝手に金を取れるようにした。 それでも、店そのものを大規模に展開できるほど、儲かる形にはできなかった。 すごい技術でレジは消せた。 だが、そのすごい技術を置くための費用までは消せなかったのである。 少なくとも、商売の中にある性善説は、人間を無条件に信じることではないのだろう。 払わない人がいることも、間違える人がいることも、最初から計算に入っている。 それでも、人を疑うためにかかる費用より、人を信じることで浮く費用の方が大きい。 だから、信じる。 信じられているのは、人間の善性ではない。 人間の善性によって生まれる利益である。 裏切られて失う金額と、信じることで浮く金額。 その差額が、性善説の値段なのかもしれない。
最後までお読みいただきありがとうございました。




とても面白い視点でした。
私は普段、現場仕事をしているので、
「仕組みとしては合理的でも、現場ではそう簡単にいかない」
ということをよく感じます。
本部から見れば許容できる損失でも、
現場の人からすれば「自分の目の前で起きている問題」なので、放っておけない。
だからこそ、
「誰の財布で計算するかによって合理性は変わる」
という言葉がすごく腑に落ちました。
性善説というと、人を信じる気持ちの話だと思っていましたが、
実際には「多少の裏切りまで含めても、信じた方が全体として得になる」という、かなり現実的な仕組みなんですね。
そして最後の、
「裏切られて失う金額と、信じることで浮く金額。
その差額が、性善説の値段なのかもしれない。」
この表現、すごく好きです。
人を信じることと、仕組みを作ること。
実はかなり近いところにあるのかもしれませんね。